1985年1月 日経平均は12000円になっていた。
Hと始めた株式投資も2年半経っていた。
日経平均は始めてから30%ぐらい上がっていた。
俺は300万円の損をし、Hは100万円の損をしていたと思う。
損の差は資金力の差。
Hと証券会社の足かせが外れ、俺は損失を取り戻していった。
「損は勉強」といって自分を誤魔化すのは止めたのだ。
通勤の電車の中では教養小説を読むのは止めて日経新聞を読み、世の中の動きを探った。
それと、時々会社の帰りに横浜に行ってゴールデンチャート社のロウソク足と週足移動平均線を見てゴールデンクロス銘柄を探した。
お陰様で、いくつもの株で儲けたのだ。
復活の足がかりを掴んだ。
今まで俺は技術者の端くれとして製品開発の長い道のりを知っていた。
技術は完成したが事業化にならない多くの開発も見てきた。
だから、新聞に踊る画期的な技術が収益に結びつかないのが分かっていたから、技術関連の銘柄は買わなかった。
でも株の世界は、お構いなしに上がったりする。
「噂で買って事実で売る」である。
考え方を改めた俺は身近である「技術的」な株も売買するようになった。
常温超伝導の日立電線と化粧品のカネボウで金額的に大きく儲けたのだ。
俺は、育ててくれた上司達のもとを去り、新しい分野で自分を試して見たくなり、新分野であったセラミックス開発に移った。
しばらくすると、常温超伝導が世界を席巻した。
チーム内で実際に試作して性能を簡易的に試したら、簡単にできて我々の出番はないことが分かった。闇研究はすぐに終わった。
俺は電線メーカーが石(セラミックス)を金属のように扱いやすくする技術がポイントであることがすぐに理解出来ていた。関連銘柄を調べた。
日経新聞を読むとトップメーカーの住友電工が技術者を、特許担当を含めて100人振り向けると書かれていた。
株価を見ると住友電工の株価は上がり始めていた。
同じ業種の株価が連れ高するので2番手メーカーであった日立電線を買って、利益をあげたのである。
常温超伝導を使った技術などは完成するわけがない。
石を金属には変えられない。
株で儲けるには「技術に精通する必要はない」
是銀一派が儲けられる世界だから。
次にカネボウで儲けた。
松田聖子が「バイオ口紅」をTVで派手に宣伝していた。
会社の社内報を見ていたら当社も「バイオ口紅」のキー技術である色材を提供していると書かれていた。
『カネボウは100億の売り上げがあるのに、当社は1000万円の売り上げしかない。ようするにカネボウだけ儲かって、開発材料メーカーである当社はまったく儲からない。』と、本社に行った前の職場の上司から聞いた。
当社の課題を、酒をご馳走になりながら教えてもらったのだ。
そこで俺は上がっていたカネボウの押し目を買った。
反発したところを10%で利食った。
手仕舞ったのは動きが悪くなったからだ。
俺は自分の身の回りの銘柄を手がけ、ファンダメンタル、テクニカルの初歩を身につけ、Hと証券会社に振り回された損を取り戻していったのである。
気力がない(体調が思わしくない)ので「投資ジャーナル」の話は次回にする。
(つづく)